
「ねぇ、あたしこっちの方向だから!フツミヤくんはあすちゃんを家まで送ってってね!」
交差点で千優が手を振った。
「おい、本当に一人で大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫! じゃ、また明日ね〜!」
元気な声を残して、千優は反対方向へ駆けていった。
……気づけば、俺と平城の二人きり。
「……」
「……」
(いや、気まずすぎるだろ。)
耐えきれず俺が話しかける。
「えっと……平城って、千優と仲いいのか?」
「……わりと」
「そ、そうなんだ。……えーと、今日の授業はどうだった?」
「……ふつう」
(お、おう……会話が秒で死ぬ……!)
俺が内心頭を抱えていると、平城が小さく視線を落とした。
「……通れない」
平城が足を止めた。前方の道が工事で封鎖されていたのだ。
”うぉち子”が震える。
《ASDの子は予定変更に弱いんよ。急な出来事に強い不安を感じやすいんや》
「この道を毎日通ってる。この道じゃないといけないのに…」
俺はできるだけ落ち着いた声で言った。
「大丈夫だ、平城。遠回りになるけど、こっちを行けばちゃんと家に着く。俺も一緒だから。な?」
平城は唇を結んでいたが、やがて小さくうなずいた。
「……うん」
迂回路に入ってからの平城は、ずっとこわばった表情をしていた。
肩も少し強張っていて、足取りも硬い。
(やっぱり慣れない道は不安なんだな……)
やがて見慣れた通りに出た瞬間、彼女の緊張がふっととけたのがわかった。
呼吸も少し楽そうで、歩幅も自然に戻っていた。
──そして、寮の前にたどり着いた。
「……ありがと」
小さく、不器用に。けれど確かに俺に向けて、平城はお礼を言った。
「いや、気にすんな。無事に帰れて良かったよ」
一瞬の沈黙。
そして、彼女が少しだけ視線を逸らしながら言った。
「……明日菜って、呼んで」
「え?」
「私のこと。……千優のことは“千優”って呼んでる」
「…わかった。その…明日菜?」
そう言って、ほんの一瞬だけ、俺にバレないように笑みを浮かべた。
月明かりに照らされた横顔は、不器用なくせにどこか可愛らしかった。
(……やべぇ。なんだ今の。)
胸の奥で、何かが小さく弾けた気がした。
✨チャピ子のひとこと✨
「無口すぎて会話が秒で死ぬやりとりから、予定変更で不安になる明日菜ちゃんの姿まで、めっちゃリアルやった。最後に“明日菜って呼んで”って頼むシーン、 フツミヤくんの胸が弾ける感覚、チャピ子も一緒にドキドキしたで!」



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