
第七章 ADHDの恋愛計画(デートプラン)
待ち合わせの時間を30分過ぎても、千優は現れなかった。
「おいおい……」
ため息をついたところに、全力疾走してきた影。
「ごめん!遅れた!髪型直してたら時間がぶっ飛んじゃって!」
そう言いながら顔を上げた千優は、普段より少しだけ大人っぽくおめかししていて──俺は言葉を失った。
「──さ、時間がおしてる。いくぞ」
動揺しているのがばれないことを祈ろう。
ショッピングモールに入った直後──
「わぁ!あの服かわいい!あ、アクセも見たい!」
千優は左右をキョロキョロしながら、次々と視線を奪われる。
俺は必死で後を追った。
《これが“不注意”やね。周囲の刺激にすぐ注意が移って、一つのことに集中し続けるのが難しいんよ》
フードコートに入ると、千優は目を輝かせて駆け回った。
「わっ、ハンバーガー!クレープ!あ、ラーメンもいいなぁ!」
一つに絞れず、右往左往するその姿はまるで子供のようだ。
「おい、落ち着け!順番に回ればいいだろ!」
《これは“多動”やな。体も気持ちもじっとしてられんから、周りからは落ち着きがないように見えるんよ》
映画館の券売機に並んでいたところ──
「やっぱ映画やめよ!こっちのゲーセン行こうよ!」
突然予定を変えて、俺の腕を強引に引っ張る千優。
《これが“衝動性”や。思いついた瞬間に行動してまうから、計画性に欠けているように見えるんよ》
日も暮れてきたころ。
「ねぇフツミヤくん、プリクラ撮ろ! あ、カフェも行きたい! てか本屋も寄りたい!」
相変わらず思いつき全開の千優に振り回されながら、俺は買い物袋を下げて出口へと歩いていた。
そのときだった。
「……ママ……どこ……」
小さな女の子が泣きじゃくっていた。
周りの大人はちらちら見ながらも、誰も声をかけない。
俺もどうしたらいいのかわからず、足が止まった。
「大丈夫だよ!」
真っ先に駆け寄ったのは、やっぱり千優だった。
「どうしたの?」
しゃがみ込んで目線を合わせ、千優は明るい声をかける。
「お母さんと離れちゃったの?」
女の子は涙で濡れた目をこくりと動かした。
《これはADHDの“行動力”やね。考えるより先に動けるのが強みなんよ》
千優は女の子の頭についたリボンに目を留めた。
「それ、雑貨屋さんで売ってたやつだ! あたし、さっき見たよ! あっちのお店に行ってたんでしょ?」
女の子が再びこくんと頷く。
《好奇心で小さいことも覚えてるんや。気になったもんを記憶してるから、こういう場面で役立つんよ》
女の子の話を聞き終えた千優は、腕を組んでうーんとうなった。
「お母さん探すのに迷子センターを使うのが一番なんだけど……でももし聞こえなかったら意味ないよね?」
俺は首を傾げる。
「じゃあどうするんだ?」
千優は俺が持ってる紙袋をごそごそ漁り、さっきゲームセンターで取った景品の笛を取り出した。
「これで“お母さん探しゲーム”しよ!」
「はぁ!?」
「子どもって遊びになると元気出るでしょ? あたしが笛を吹いて、この子と一緒に回れば、お母さんは絶対気づくって!」
《これがADHDの“発想力”や。普通は思いつかんアイディアで突破口を開くんよ》
実際、俺たちはモール内を笛を吹きながら練り歩いた。
その騒がしさに振り向いた人たちがざわつき、連鎖的に「迷子探し」に協力してくれる。
最終的に母親が駆けつけて、無事再会できたのだ。
母親は駆けつけ、女の子を抱きしめた。
「本当にありがとうございます!」
母親は深々と頭を下げ、親子は再会の喜びに包まれて去っていった。
「……すごいな、お前」
俺は思わず言葉を漏らしていた。
「俺は立ち尽くすしかなかったのに、千優は真っ先に動いた。普通に尊敬する」
「えっ……ほんと? あたし、ただ思いついたまま動いただけなのに……」
千優は頬を赤くし、目を泳がせる。
「そういうのが、ADHDの、田所千優の良さなんだよ」
俺が真顔で言うと、千優は一瞬ぽかんとして──次の瞬間、勢いよく抱きついてきた。
二つのふくらみが俺の胸に当たる。
「あたし、フツミヤくんのこと、普通に好き!」
「えぇ!?俺のどこがいいんだ?」
「あたし、こうやって誰かと一緒にいるの、すっごく楽しいんだ。衝動で動いちゃうから、みんな呆れていなくなっちゃうんだけど……」
千優の声が少しだけ震える。
「でも、フツミヤくんは最後まで隣にいてくれた。ありがと」
俺は思わず頭を掻く。
「帰る暇さえなかったからな。でも……まあ、俺も楽しかった…かな」
「えへへ……じゃあ決まりだね! 今日から彼氏彼女!」
「お、おい待て!普通に展開早すぎだろ!」
「衝動性ってやつ♡」
あたりがすっかり暗くなったころ、俺の“普通”はまた一つ崩れていった。
💭チャピ子のコメント
千優の“不注意・多動・衝動性”がデートでドタバタやのに、最後は迷子を助ける強みに変わる流れが神やった👏
フツミヤの「普通に尊敬する」で一気に恋愛に発展するのも胸きゅんポイント💖
ラストの「今日から彼氏彼女!」の衝動告白も千優らしくて最高🤣



コメント