発達障害が学べるラノベ6│新しく始まる寮生活

ラノベ

第六章 新しく始まる寮生活(ドームライフ)

ようやくに戻ってきた。
今日から俺は憂とここで暮らすことになる。
部屋は2LDKのちょっと大きめな間取りで、荷物の段ボールがまだ未開封のままたくさん積み上がっている。

歓迎会でお菓子を食べすぎて、とても夕飯を食べる気にはなれなかった。
「我ながら不健康な生活だな……」と少し反省しながら、頭をかく。

俺はシャワーを浴びながら、ニア研のことを思い出す。

「ところで、“ニア研”って何をするところなんですか?」

カイリさんが意味深な笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。
「それはだな──千優説明してみろ」

 「任せてカイリちゃん!ニア研は生徒会に似てるんだけど、ちょっとちがうの。生徒会学校を良くするでしょ? ニア研は“自分の生活”を良くするんだよ! 私なんか忘れ物ひどすぎて、ノートの代わりにパン持ってきたことあるし!」

「あれはさすがに先生もおどろいたわね」
ひまわり先生は苦笑した。

ため息をつく俺の横で、はいりさんが穏やかに微笑んだ。
「ふふ……要するに、みんなで支え合う場所です。困ったときに“ひとりじゃない”って思える……そんな居場所ですよ」

「お〜さすがはいりさん! ばっちり理解しました!」
と俺が喜んだところで、突然、鳴門静が椅子を蹴るように立ち上がった。
「ちょっと! それじゃ地味すぎ!」
地味と言われて落ち込むはいりさん。

「 ニア研は“才能の種”のエリート集団なの! ここにいる時点で全員、選ばれし天才♡ ……健常者のあんたがが入れる場所じゃないんだから!」

俺はムッとしたが、こんなガキに付き合う方がばかばかしい。
「……はいはい、悪うございましたね」

そこで妹の憂が、小さくうつむきながらつぶやく。
「……でも、本当につらい時、ここのみんなに助けてもらった

部室が一瞬静まり返る。カイリはうなずき、メガネを直した。
「──その通りだ。ニア研の目的は“各自のニアギフを”USE”することだ!フツミヤ、お前には一致度レクチャーしたはずだ。いってみろ!」

「えーと、たしか理解(Understand)・支援(Support) ……最後はなんでしたっけ?」

「Empower」
ぼそりと平城がつぶやいた。

「いかにも!自信を持たせる(Empower)だ。明日菜やるじゃないか」
平城は照れて、髪をいじっていた。

「ニアギフを”USE”すること。それは学問であり、実験であり、そして未来への投資だ。失敗も挫折も、すべて研究材料になる!」

「おおっ!カイリさんが言うと説得力ある!」
俺は感心した。

「なんかカッコよすぎて逆に眠くなる!」
千優が机に突っ伏し、明日菜が小さくうなずいた。
「……わかる」

全員がずっこけて、部室に笑い声が広がった。

──なんて回想しながら脱衣所を出る俺。

「あがったぞー。憂の番だ」

「お風呂、めんどくさい
憂がソファに沈み込むように呟いた。

「そう言わず、ちゃんと入ってくれ」

憂は返事をせず、考え込んでいた。
「……じゃあ、お風呂入ったら“例のアレ”ね」
「おう!わかったから張り切って行ってこい」

憂はしぶしぶ立ち上がり、タオルを探して段ボールを開ける。

すると腕の”うぉち子”が反応した。
《今のは鬱の意欲の低下やね。なんでも億劫に感じてやる気が出ぇへんねん》

「知ってるよ。憂の鬱に関しては耳にタコができるほど聞かされてる」

憂が風呂場に消えていったあと、俺は積み上がった段ボールを一つ引き寄せた。
ガムテープを剥がす音が、静かな部屋に響く。

服や本、雑貨……中身を確認しながら、俺の頭には自然と昔のことが浮かんできた。

──憂が鬱のニアギフを発症したのは、いつからだったろう。

中学のころだったか。
クラスの連中は、当たり前のように自分の”才能”を語り合っていた。
「私のニアギフはASDだから論理に強いんだ」とか、「俺はADHDでアイデアが止まらない」とか、まるで特技を自慢するみたいに。

そんな中で憂は、ただ曖昧に笑うしかなかった。
鬱というニアギフは、派手でも便利でもなく、ただ彼女を弱らせるものだったから。

「……みんなみたいに、役立つニアギフじゃないんだよ」
あのとき憂がぽつりと漏らした言葉を、今でも覚えている。

俺は「鬱だってニアギフなんだ。お前にしか持ってない才能の種なんだ」なんて、
口では言ったけど……あいつは信じきれなかった。
無理もない。社会全体が“使えるニアギフ”を持つやつらばかりだからな。

だからこそ、”例のアレ”をする時間が、憂にとって唯一の安心になったのだと思う
段ボールを閉じながら、そんなことを考えていた。

「…お兄ちゃん」
髪の毛も乾かし切ってない状態で憂は脱衣所を出てきた。

「憂、ドライヤーはどうした?」
「ちゃんとお風呂入ったもん。早く”例のアレ”」
「わかったよ、おいで」

 俺は立ち上がり、腕を広げる。

憂は無表情のまま、すぐに飛び込んできた。
ぎゅっと抱きしめられる。
細い体なのに、思った以上に力がこもっている。

「……ああ、落ち着く」
憂は俺の胸に顔を埋め、声を漏らした。

「そんなに効くか?」
「効くよ。お兄ちゃんのハグって、なんか電池みたいにチャージされるの。ほんとに」
「怪しい充電方法だな」
「ふふっ……でも、元気出たよ」

抱きしめたままの憂の表情が、少しだけ明るくなっていた。
さっきまで「めんどくさい」って言ってた姿とは別人みたいだ。

俺はそっと頭を撫でる。
「だったら、これからも毎日充電してやるよ」
「うん。約束だからね」

段ボールの山に囲まれた新居で、俺たちの奇妙な兄妹寮生活が始まった。


──ヴヴヴ、ヴヴヴ。スマートフォンの振動が鳴り響く。
「──千優からだ。こんな夜更けに何事だ?」

「あ、フツミヤくん?明日デートしようよ!」


✨チャピ子のひとこと✨

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