第十六章 姉さん女房のお弁当(ランチボックス)

ラノベ

チャイムが鳴った瞬間、俺はにやけていた。いや、授業中もにやけていたとも。
もう自分でも抑えられない。だって、はいりさんが「明日、お弁当を作ってきますね」と言ってくれたんだから。

「……顔。にやけてる」
隣から明日菜低いツッコミ

「うわぁ〜〜フツミヤくん、完全にデレ顔!ひょっとしてデート? いや、ランチデート? お弁当デート!?!?」
千優が机をばんばん叩きながら大騒ぎする

「ち、ちがう! いや、違くはないけど……」
動揺しているうちに、はいりさんが静かに教室の扉から顔をのぞかせた。

「通さん……あの、よろしければ、ご一緒に」
その控えめな声に、千優が「キャーッ!」と声を上げる。

「やっぱり〜! お弁当持参の姉さん女房コースだ!」
「……惚気、目の前で見る羽目になるなんて」

俺は赤面しつつ立ち上がり、はいりさんに頭を下げた。
「……ありがとうございます。ご一緒させていただきます」


昼休みの屋上。
包みを開けると、彩り鮮やかなお弁当が現れた。
出汁の香りがふわりと漂い、見ただけで胃袋が喜んでいる。

「わ……すごい。見ただけで元気になりそうです」
食べやすいように小さめに切ってありますから。あと、冷めても美味しいように工夫してみました」

一つ一つの言葉に、はいりさんの気遣いが詰まっていた。
卵焼きにはほんのり甘みがあり、焼き魚は骨をきれいに取ってある
おにぎりは具材ごと海苔を巻き分け手が汚れないように工夫されていた。

「……はいりさん、すごすぎます。ここまで考えてくださるなんて」
「いえ……私、人の好み表情気にしすぎるところがあるので……。でも、そのおかげで“こうした方が食べやすいかな”って自然と思いついちゃうんです」

なるほど、これもHSPの良さなんだ。
人のちょっとした仕草から望みを察して、細やかに整えてくれる。

俺が夢中で食べていると、はいりさんがそっと手を伸ばしてきた。
「……ご飯粒、ついてますよ」
その仕草があまりにも自然で、まるで本当に“お嫁さん”のようだった。

「はいりさん……まるで姉さん女房みたいですね」
思わず口にすると、はいりさんは耳まで赤くして俯いた。
「そ、そんな……私なんて」

でも、その照れ笑いには確かな嬉しさがにじんでいた。

彩り鮮やかな料理に、俺は何度も「美味しいです」「本当に丁寧に作ってくれてるんですね」と言い続けた。
はいりさんは耳を赤くしながらも、嬉しそうに微笑んでいた。

弁当を食べ終わると、はいりさんがぽつりとつぶやいた。
「……少し横になりますか? 通さん、疲れているようにみえるから」

そう言って、をとんとんと叩いてみせる。
「えっ……そんなこと、よろしいんですか?」
「ふふ……どうぞ」

お言葉に甘えて横になると、はいりさんの膝は柔らかくて、ほんのり温かかった。
髪を撫でる指先がやさしくて、心地よすぎて思わず目を閉じる。

そのときだった。
はいりさんが体勢を崩したのか、ふわりと影が覆い、柔らかく、そして重厚な感触が顔面にのしかかった。

……え。これは。まさか。

目を開けると、はいりさんの豊かな胸が俺の顔を覆っていた。
はいりさんは真っ赤になって慌てて身を起こす。
「す、すみませんっ!通さんの寝顔を覗こうとしたら胸があたってしまって……!苦しくなかったですか?」

「い、いえっ! むしろ、あの……別のところが苦しいというか……いや、なんでもありません!」

胸の高鳴りが収まらない。
これは事故だ。偶然だ。けれど――

(やばい。本当に、はいりさんのこと……好きになってしまう……!)

頬が熱くて仕方がなく、俺は必死に平静を装おうとする。
でも横目で見たはいりさんの顔も真っ赤で、二人の間には甘い沈黙が流れていた。

屋上での膝枕、そして思わぬハプニング。
胸の鼓動は落ち着かず、呼吸すら不規則になっていた。

俺は、これ以上ごまかせないと思った。
はいりさんを見つめ、深呼吸する。

「……はいりさん。正直に申し上げます」
彼女の瞳が、驚きと不安を宿したまま俺を映す。

「これ以上続けると……俺は本当に、はいりさんのことを好きになってしまいそうです」

沈黙。
その言葉は、思っていたよりも重く空気を揺らした

俺は続けた。
「この数日、はいりさんを見てきました。
その繊細さ気遣い、そして人の心を映すような感性……はいりさんは間違いなく、HSPです」

彼女は小さく息を呑み、それから力なく微笑んだ。

「……そっか。じゃあ……“新婚ごっこ”もおしまいだね」

その笑顔は、柔らかくて、けれど寂しさを隠しきれないものだった。
俺は何も返せなかった。二人の間に流れる静かな風。
楽しかった時間は、ほんのひとときの夢のように幕を下ろしたのだった。


✨チャピ子のひとこと✨

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