第十一章 なくした鍵と見つけた気持ち(エモーション)

ラノベ

帰宅時、千優と別れる十字路にて。

「フツミヤくーん、あすちゃんのこと、よろしくねー!」
「おう、千優も気をつけてな!」
「あすちゃーん、グッ!

千優は明日菜に向かって親指を立てている。

「なんだありゃ?」
「……ッ……知らない……」
明日菜はぷいっと顔をそらして歩き出した。

俺も慌てて後を追う。

「……千優……変わってる……」
「ははっ、まあ、あれが千優だしな
「……でも。ああいうところ……少しだけ……安心する
「へぇ? 平城がそう言うの、なんか新鮮だな」
「……明日菜」
「あ、そうだった。その……明日菜
「──ッ……」

また沈黙してしまった。しかし、いい感じ話せていたのではないか
たった一言、二言。けれどその一歩がやけに大きく感じられた。

「──ん!?」
ポケットに手を突っ込んだ瞬間、嫌な感触が走った。

「……あれ? 鍵がない
寮の鍵。さっきまで確かに入っていたはずが、どこを探しても見当たらない。

「マジかよ……どうしよう……」
焦りで頭が真っ白になっていると、隣の明日菜が立ち止まった。

「……落ち着いて」

それだけ言うと、彼女は周囲じっと見回し始めた
街灯の下、植え込み、道路脇。目を細めて、一つ一つ確認していく。
その姿はいつもの無口さと違って、何かに没頭している気迫があった。

《これは“ハイパーフォーカス”やな。特定のことに全集中する力を持っとるんよ。周りのことが見えなくなる代わりに、ものすごい観察力や集中力を発揮できるんやで》

「お、おい。もう暗くなるし、そんなの探しても──」
「……静かに」

俺は思わず口をつぐんだ。
彼女の視線はまるでレーザーのように一点一点を射抜き、少しでも異変を見逃さない。

数分後。

「……あった」
明日菜が膝をついて、排水溝の隙間を指さす。
コンクリートの間に、小さな銀色の鍵が引っかかっていた。

「これ……よく気づいたな」
「……集中しただけ
彼女はそっけなく言いながら鍵を拾い上げ、俺に差し出した。

受け取った俺は、安堵の息と共に小さく笑った。
「すげえよ、明日菜。俺一人じゃ絶対見つけられなかった。ありがとう」

その瞬間、彼女はわずかに頬を赤くし、視線をそらした。
「……別に。フツミヤくん……困ってたから……」

その不器用な横顔に、胸がどきりと鳴った。
彼女のASDに救われたことが、心に深く刻まれていく。

「いや、ほんとにさ。明日菜ってすごい。集中したときの迫力もそうだし、見逃さない観察力も。正直、惚れ惚れするレベルだぞ」

「……ッ……な、なに言ってるの……」
明日菜の声が震え、視線が泳ぐ。耳まで赤くなっているのは夕日に照らされているからではない。

沈黙を切るように、彼女が小さな声でつぶやく。
「……フツミヤくんは、千優と……どういう関係なの?」

「え?」
不意を突かれて、思わず口ごもる。

「……仲良い。よく一緒にいる。……だから」

俺は少し笑って肩をすくめた。
「先日、千優とデートした。そのとき、あいつの明るさ真っ直ぐさ……ADHDの輝きってやつを見た。なんも持ってない俺からしたら、あまりにも眩しくて、キラキラしてた」

自嘲気味に笑う俺を、明日菜はまっすぐに見つめる。
「フツミヤくんは……何も持ってなくなんて……ない。私……こんなに安心できる人……初めて

その声音はかすかに震えていた。
胸の奥が熱くなり、思わず笑みがこぼれる。
「そっか……それはマジでうれしい。今日の明日菜はすっごくキラキラしてた。正直で、誠実で。それがASDの……いや、平城明日菜の良さなんだな。正直、見蕩れたよ。」

明日菜の顔はこれ以上ないほど赤く染まり、俯いたまま指先をぎゅっと握りしめる。

「……でも、千優は俺に『好き』って言ってくれた。だから……俺は千優の気持ちに向き合わなきゃなと思う」

しばしの沈黙──そして、震える声。
「私も! 私も……好き……。あなたのことが……好き……」

心臓が大きく跳ねた。

「…ありがとう。明日菜が、どれだけ勇気をふり絞ってくれたのか……今なら少しだけわかる気がする」

夕暮れの風が静かに吹き抜け、二人の間の熱を冷ますように流れていく。

「優柔不断で、かっこ悪いな……俺。でも、ちゃんと真剣に考えるから……少しだけ時間をくれ。こんなかわいい子二人に好きって言ってもらえるなんて……俺は幸せもんだな」

明日菜は何も言わず、ただ小さく頷いた。
その仕草が、胸に響く。

俺は笑って手を振った。
「じゃ、また明日。学校で」

✨チャピ子のひとこと✨

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